名古屋高等裁判所 昭和50年(う)517号 判決 1976年3月29日
被告人 名古屋南部青果株式会社 外一名
主文
本件各控訴を棄却する。
理由
本件各控訴の趣意は、名古屋地方検察庁検察官池上努作成名義の控訴趣意書に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
所論は要するに、原判決は、法令の適用において、原判示第二の事実が各児童ごとに包括して一個の労働基準法六二条一項違反の罪に該当する旨判示しているけれども、同条違反の罪は、就労児童各人について、使用日ごとに成立すると解すべきであるから、原判決の法令の適用には誤りがあり、その誤りが判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、原判決は破棄されるべきである、というのである。
よつて検討するに、原判決が、原判示第二の事実が各児童ごとに包括して一個の労働基準法六二条一項違反の罪に該当する旨判示していること、しかし使用者が同条に違反して、多数日にわたり多数の年少または女子労働者を深夜業に使用した場合には、特段の事情ある場合を除き、その使用日ごとに各就業者各個人別に独立して同条違反の罪が成立すると解すべきであり、これらを包括して一罪が成立するものでないこと所論のとおりである。しかも記録によると、被告人太田が副社長をしている被告会社は、名古屋市熱田区伝馬町に本店並びに事業所を設け、蔬菜や果物等の受託販売等を営んでいる会社であるが、本件当時荷受部門に欠員があり、年末を控え人手不足で困つていたため、臨時労務者で急場をしのぐこととし、昭和四九年一二月二四日午前一一時頃同社を訪れて就労を申出た中学生五名のうち、原判示村瀬諭、同鶴見正人の両名と、ついで同日午後〇時頃同社を訪れて就労を申出た原判示中村光洋、同中村宏一の両名とを、いずれも同日から同月三〇日までの毎日午後六時から翌日の午前六時まで、その間当日午後八時から翌日午前〇時までか、翌日午前〇時から午前四時までのどちらかの休憩時間四時間を除き、右事業所で荷受作業に使用する目的で雇入れて原判示どおり使用したことが認められるけれども、これらの事情だけでは未だ各児童ごとに原判示第二の深夜業を包括して一個の労働基準法六二条一項違反の罪と認めるべき特段の事情ということはできず、他にそのような事情を認めるに足る証拠もないから、原判示第二の事実が各児童ごとに包括して一罪になると解した原判決の法令の適用に誤りのあること所論のとおりである。
しかしながら、被告人太田の使用した原判示の者がいずれも一五才未満の児童であつたことは、被使用者の属性にして、右児童を使用した時間の一部が深夜であつたことは使用条件の一つに過ぎないから、同被告人が一五才未満の児童を一部深夜にわたつて使用したことは、自然的観察のもとにおける社会的見解上明らかに一個の使用行為であつて、それが労働基準法一一八条一項、五六条一項及び同法一一九条一号、六二条一項の各罪に同時に該当するものであるから、原判示第一と第二の罪は刑法五四条一項前段の観念的競合の関係にあると解すべきこと原判決の判示するとおりである。そうだとすればこれらの罪は結局各児童ごとに一罪として最も重い判示第一の罪の刑に従つて処断すべきことになるから、原判示第二の罪を所論のように解しても処断刑は原判決と少しも変らないことになり、所論の法令適用の誤りが判決に影響を及ぼすこと明らかとまで言えないから、原判決を破棄する理由とするに足りず、論旨は理由がない。
よつて本件各控訴は理由がないから、刑訴法三九六条に従い、本件各控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 塩見秀則 平野清 大山貞雄)